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『うさぎドロップ』(⑤~⑨)

幸せな親と 幸せな子どもの 幸せな物語は続く
『うさぎドロップ』(⑤~⑨)  宇仁田ゆみ

『うさぎドロップ』5


(※ネタバレ注意 ~気になる方はお読みにならないようお願いします~)
------------------------------------------


 『おおきくなったら おとうさんのお嫁さんになる!』

世間には、幼い娘からのこのひと言に、無上の喜びを感じるお父さんたちが少なく
ないようです。
ただ、得てしてそうした幸せが長続きすることはなく、遠からず他ならぬその娘から
「まるで無機物を見るような視線」(某友人談)を向けられることになる日が
やって来ることもまた、世のお父さんたちの避けられぬ宿命なのかもしれません。
父と娘のほんの一瞬の相思相愛が、現実には決して成就することなどあり得ないのは
至極当然のことなのです。

そんな「当然」の感覚を前提に読んだ『うさぎドロップ』5巻から最終9巻は、
いろいろな意味で衝撃でした。
高校生になったりんと40男のダイキチのお話とあっては、前巻までのような父子の
濃密な関係を描く「子育て物語」でないことは仕方がないにせよ、それでもなお
『うさぎドロップ』という作品は「親」と「子」の物語なのであって、
そこに描かれてゆくのは親を思うりんと、子を思うダイキチの、それぞれの姿であり
想いであるはずと思っていました。
もちろん、いち読者の勝手な思い込みとして、ですが。

そんな思い込みに縛られていた私にとって、ダイキチへの「恋心」を抱えるりんの姿は、
正直、全くの予想外だったと言わざるを得ません。
(この展開は既に広く知られているようなので、あえてネタバレ的記述を避けません。)
高校生のりんとコウキの少々複雑な恋愛関係は、それはそれで違和感なく納得できる
展開だったものの、その後にまるで不意打ちのようにやって来た、異性としての
ダイキチを見つめるりんの姿には、思わず驚愕を覚えずにはいられませんでした。

「これは思春期の少女の不安定な感情表現なのか?」「こうした葛藤を乗り越えてこそ
最後には親子の絆が深まるのか?」などと、この期に及んでなお自分の中の「当然」を
信じようとしても、りんの恋心は一向に治まることなく大きくなってくるし、
残りページ数も少なくなってくるし…。
ある意味、漫画を読みながらこれほどハラハラしたのは久しぶりかもしれません。
そんな焦燥のなかに読み進めるうちに、りんの想いをダイキチが知るところとなったり、
りんとダイキチに血縁が無いことが明かされたり(!)といった急転を経て、
物語は遂にダイキチがりんの想いを受け入れるという展開に至ります。

「えぇぇぇ!? 源氏物語か!? それでいいのか!?」
少々意地悪く言えば、この時点での私の感想はこうしたある種の失望めいたもので
あったことは否めません。
自分が『うさぎドロップ』という作品に追い求めた「父」と「子」の有り様とは
一体なんだったのか!? などと、少しばかり批判に傾いたことまで考えてしまった
ことも事実です。
りんとダイキチの姿を通して、あれほど濃密な親と子の関係を描いてきたこの物語の
行き着く先が、りんの恋愛感情の成就に変貌してしまうのは、いかにも残念としか
思えませんでした。
(例えダイキチとは血縁がないという事実があるにせよ)
もちろん、これもまたいち読者の勝手な思い込みとして、だったのですが。


うさぎドロップ⑤~⑨-1

しかし、兎にも角にもラストシーンまで辿り着こうと、
その後の展開を読み進めていたところ…
またも不意打ちのようにその「衝撃」はやって来ました。
他ならぬりんが発したひと言によって。


『うん こども産みたい ダイキチの』
『そしたらね 絶対その子のことを幸せにするの』

『わたしみたいにね』


物語の最終盤でのりんのこの言葉で、何かそれまで抱いていた批判めいた見方が一気に
霧散してしまったように、毒気を抜かれてしまいました。
いささか単純のそしりを受けるかもしれませんが、私個人としてはこのひと言によって
本作の行き着く先としてのりんとダイキチの関係を、良しと出来たような気さえします。
それほどに、りんのこの言葉は、単なる恋愛感情から発せられるものには留まらない、
とても奥深い想いであるように感じます。

『わたしみたいに』自分の子どもを幸せにしたい。

りんのこの想いは、ダイキチによってりんが「幸せな子ども」になれたことの、
そして、りんによってダイキチもまた「幸せな親」となれたことの証左に他なりません。
そうして、幸せな親によって育まれた幸せな子どもは、やがて自らも「幸せな親」と
なりたいと願うようになる。
これこそが、親となること、またその親の子となることという、ひとが生きてゆく上に
繰り返される壮大な物語なのであって、そこにこうした「幸せ」の想いが受け継がれてゆく
限り、それはすなわち「幸せな物語」であるという証なのだと思います。

ひとはこうして「幸せな子」であり、また「幸せな親」でもある存在になれるのであって、
それは決して二者択一ではないとすれば、連綿と続くその幸せな親と子の両者の関係は、
社会規範の常識や生物学上の本能すらも超えた深層においては、やはり相思相愛で
あるはずと思えてなりません。

一見するとりんの恋愛感情の成就とも見える本作のラストシーンですが、
私にはこれもまたある意味、親と子の深層の、究極の関係を描いたもののようにも
思えます。
「幸せな親」と「幸せな子ども」が、現実の常識として当然に訪れる離別の時を
乗り越えて、なおもふたりで幸せな物語を紡ぎ続けられることがあるとしたら…。
幼い娘が、決して子ども故の浅慮や打算からではなく、純真から父親を恋い慕った刹那の
感情を、もしも色褪せることなく持ち続けることが出来たとしたら…。
そこには、こうしたある種夢のようなおはなしが在ってもいいのかもしれません。
この、現実には在りそうで無さそうな関係の「父」であり「子」である、
りんとダイキチのふたりにとっては。

 『おおきくなったら おとうさんのお嫁さんになる!』

愛しい娘のこの言葉をいつまでも大切に持ち続けてなお、やがては必ずや裏切られることと
なる、世のお父さんたちに捧げるせめてものお伽噺として。
                                                 【 くぼ太 】
うさぎドロップ⑤~⑨-2



「うさぎドロップ⑤~⑨」4コマ
                                                   
『うさぎドロップ』5
『うさぎドロップ』(⑤~⑨)
宇仁田 ゆみ
祥伝社 
販売価格 各980円


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コメント

[C21] そういうこと

こんちは。

 源氏物語ってのは、女から女へ、権力から権力へと移り変わる人間の業、かわらぬ愚かしさを書きつづっている物語なんで、青い鳥症候群の究極的な話。

 うさぎドロップが語っているのとは間逆の話でね。

 1~4巻までは「りん」は愛情を受け取る一方だった。もちろん子供の無邪気さで「ダイキチ」は「りん」から愛情を受け取ってもいるんだけれどもね。

 それと違い5~9巻は、「りん」が愛情の意識的な「送り手」として成長していくお話になるわけ。
 これがあるから、1~4巻までの話しが再度生きていくことになる。

 愛情を十分に受けた人でなければ送り手になれるわけがないのだからね。

 「ダイキチ」が「りん」をいかに愛情深く接してきたこ
とがここで再度強調されるからね。

 だから9巻が最高の巻になるわけです。

 この9巻を忌避する人は男女の関係になることで年齢などで「りん」の性的な魅力の減退と共に「ダイキチ」の「愛情」が薄れるみたいなことを想像してるんだろうけど。

 まず、「りん」と「ダイキチ」にはたっぷりと「人対人の愛情関係」ががっちりとした基盤としてすでに構成されているんで、その上に「ちんまり」と「男女の愛情」が乗っかるだけなんでね。

 本質的になにも変わらんわけなんですよ。


ではでは。
  • 2011-12-29 07:39
  • mino
  • URL
  • 編集

[C20] たしかに…

mino様
なるほど「青い鳥」ですか。
勉強になります。

たしかにこの作品って「源氏物語」ではありませんよね。

私もりんとダイキチのこの結末は、これで良かったものと思います。
こんなにも互いを想い、慈しみあう二人が、
次の世代までその幸せを受け継いでいけるというのは
これ以上にない幸福に違いありません。

愚かにも途中で「源氏物語」など思い浮かべた自分が恥ずかしくなるほど
本作のラストシーンは素晴らしいものでした。
  • 2011-12-28 00:56
  • くぼ太
  • URL
  • 編集

[C19] これね

みんな読み方間違ってるんだよ。

源氏物語じゃないの。

これは青い鳥。

 外に青い鳥を探しに行った「正子」と青い鳥を互いに見つけあった「りん」と「ダイキチ」の話。
 
 捨てられた「りん」は「ダイキチ」は家族を作るわけだけど、なぜ家族という形態をとるのかといえば、青い鳥というのは「見返りのないの愛情」だから。

 普通はそういった愛情は家族か長い付き合いをした夫婦の仲にしか見つけにくいからそうなってる。

 それで、互いに青い鳥をみつけあった二人がずっと一緒にいたいと思うのはとても自然な感情で、その感情が先にあるから、この時点で「娘」とか「夫婦」というのは一緒にいるための所詮「後付の理由」に過ぎないわけ。

 一緒にいることが前提の互いの幸せだからね。
 
 だから9巻が必要で重要なのです。そこをはっきりさせるためにね。やっぱり青い鳥は家の中にいるということをだね。

 最初の告白でダイキチが残酷だといったのは、そうなるとりんといっしょにいられなくなるから。なぜ一緒にいられなくなるかといえば、ダイキチがりんと一緒に暮らしている理由が娘として育てるというところしかないから。

 あの時点では、「りん」は「ダイキチ」と血がつながっていないことを知らないわけだからね。そんで「正子」とは「りん」と和解しているという認識が「ダイキチ」にあるわけだから、「本当の母子」と「偽の他人同士」では当然どちらが家族として正しくて良いのかという問題。なにせ「りん」は16歳の未成年女子。返さないわけにはいかないでしょう。

 あの時点では「りん」が「娘」でいることがいっしょにいる理由として重要なファクターなの。

 「一緒にいたいという信頼感情がある他人の男女が結婚してどこが悪い!」というのが、私の9巻に対する感想で、納得いかないことがまったくなかったよ。

 むしろ、納得いかない人に納得いかないですわな。

でわっ。
  • 2011-12-27 21:02
  • mino
  • URL
  • 編集

[C11] くえのめ様、コメントありがとうございました。

くえのめ様、コメントありがとうございました。
いただいたコメントへのお返事がたいへん遅くなりまして
申し訳ございません。
諸事情により、暫く当たり前の日常生活から遠く離れたところへ
行っておりました。(なんのこっちゃ?)

くえのめ様の、真っ直ぐで熱いレビュー
とても参考になります。
『日増しにホビー』これからも楽しみにしています。

今後ともスタジオGMを、どうぞよろしくお願いします。
  • 2011-12-03 10:11
  • くぼ太
  • URL
  • 編集

[C10] くえのめ様、こんばんは

こちらこそ素敵なコメントをありがとうございました。

現在、事情がありまして、くぼ太がすぐにコメントすることができません。
復帰次第コメントさせていただきますので、
しばしお時間をいただく御無礼をお許しください。m(_ _)m

                       エージェント高杉
  • 2011-11-26 19:58
  • エージェント高杉
  • URL
  • 編集

[C9] コメント有難うございました~

くぼ太様こんにちは~。
当方のダメレビューにコメント下さり有難うございましたm(_ _)m

アチラにも書かせて頂いたのですが、
結局この作品は良くも悪くも長期連載になってしまった事が一つのポイントだったかもしれませんね。

結末には結構批判もあるようですが
当初の予定どおり1巻で完結していれば、さほどの不満も生じなかったように思います。

人気が出て、子育て部分がなまじ長期化したため、
「うさぎドロップ=ほんわか子育てマンガ」
のイメージが定着してしまったようにも思っています。


>ある意味、親と子の深層の、究極の関係を描いたもののようにも思えます。

同感ですね~。
「わたしみたいにね」
と言いながら、後の世代にどんどん繋がっていけば最高ナンですが・・・(^0^)


それにしても絵がお上手でウラヤマシイ・・・^^
それでは~

[C6] おはようございます

ヒナタカ様、コメントいただきありがとうございます。
ヒナタカ様のブログ「カゲヒナタのレビュー」も
とても興味深く読ませていただきました。
各シーンを詳細に分析して作品の本質に迫ろうとする姿勢と、
ひとつひとつの考察の深い洞察力に感心いたしました。

私のほうは、りんとダイキチの予想外のアレ?な関係を目の当たりにして
いささかうろたえてしまい、とりとめのない雑感となってしまったことが
お恥ずかしい限りです。
(いつものことですが。)

これからも「カゲヒナタのレビュー」を楽しみにしています。
今後ともよろしくお願いいたします。

[C5] こんばんは

自分のブログにコメントありがとうございます。

絵がものすごく上手ですね!わかりやすいし・・自分にはできないのでうらやましいです。
感想も自分と似た意見があって嬉しいです。

特に最後のこれ
> 『おおきくなったら おとうさんのお嫁さんになる!』
>愛しい娘のこの言葉をいつまでも大切に持ち続けてなお、やがては必ずや裏切られることと
なる、世のお父さんたちに捧げるせめてものお伽噺として。

世の男の理想を体現している・・とも考えれますものね。
でもそこまでのいやらしさを感じないのも、この漫画の素敵なところなのだと思います。

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